こんな日に限って…

気持ちが乗っているのに雨。晴天なのにやる気がしない。だから「こんな日に限って」

琵琶法師

ちっちゃい体に27インチの大きなママチャリに乗って、○×の下りを猛スピードで走ってくる女子中学生がいる。僕は彼女のことを“琵琶法師”と名付けそう心の中で呼ぶことにしている。
小さいので最初見たときは、無人の自転車が走ってきたと思いゾッとした。

琵琶法師とは毎朝○×交差点を過ぎたところですれ違う。自転車なのに右側を走り、しかもチコクすれすれなのだろう、凄いスピードで下りてくる。顔も必死だ。
正しく左側を走っている僕は、彼女が迫ってくるのをいち早く察知するために、交差点を過ぎた辺りから前方に意識を集中させ避ける準備をする。ぶつかったらえらい事だ。

以前こんなことがあった。
琵琶法師とすれ違うちょうど同じ時刻、前方に僕と同じ方向に登って行く学生の集団がいた。
集団は彼女のことなど知らないから並列しオシャベリしながら横にふくらみ気味で自転車を漕いでいた。
するとそこにいつものように琵琶法師が登場。点はどんどん大きくなりこちらに向かってくる。
オシャベリに夢中だった集団も殺気に気が付いたのか、慌てて編隊を直列に直そうとしたが間に合わない。
彼女はもうすぐそこまで迫ってきている。『わっ、ぶつかる!』と、思ったが間一髪、すれすれの所ですり抜けていった。
直後、僕とすれ違いざま彼女のつぶやきが聞えた。
『…危ないじゃないのよ、まったく…』
前後はドップラー効果でよく聞えなかったが確かにそういった。
危ないのはオマエさんだろ…、思って振り向いたがすでに影も形もなかった。

集団は恐怖のあまりさっきまでの談笑はどこへやら。どよめきがおきていた。

猪突猛進の琵琶法師。
牛乳飲んで大きくなれよ。そしてもっと早起きしてゆっくり安全に走れよ。なにより自転車は左側だからな。よろしくたのむよ。

…と伝えたいがいまの僕には術がない。なにしろ朝の“一瞬の”出来事なのだから。