40年以上前のローテーターKENPRO(ケンプロ)KR-600をいまだに使い続ける方へ向けての修理記事。
ある日突然強風で回る様になってしまった
強風の日、ふとローテーターコントローラーの指針を見ると、停めた覚えのない方角を指している。アンテナもその方角を向いているので、ポテンショメータと連動している。
どうやら本体のブレーキが効いてない。
自からの回転に対して静止はするが、強風が吹くとゆっくり回転(スロースリップ)して、ストッパーの位置、回転限界まで回ってしまう。(それ以上は構造的に回らない)
原因
解明までに時間がかかったが、以下の展開図の29番(Motor Ass'y)の内部の不良。バネのズレか、油混入による滑りが原因と考えられる。
対策(修理内容)
ブレーキ機構部の脱脂。再組立て。以下、サーボモーター到達までの分解の様子は省略。今回の故障部分だけにフォーカスして解説。
まずは切り分け。
下の写真の状態で指でピニオンギア(白い部分)が回るとNG。この記事が役に立つと思う。正常品はすぐロックが掛かる感じで回らないし回ってはいけない。片効きでもNG。
モーターを取り外し(引っかかって外しにくいが)、4隅のナットを外し分解する。
カバーは固着して外しにくいのでトンカチでたたくなど刺激を与える。上下あるが上側だけ外せばよい。指で隠れているが、回転子ごとズボッと外れる。
Cリングを外し(上の写真はすでに外れている)軸からピニオンギアを抜く。
上の写真の丸穴からイモネジが見えるはずなので、それを緩めると軸にアソビがでて外しやすくなる。(直下の回転体が少し上下することによる)
裏から隙間にマイナスドライバーを当て、テコの原理で少しずつ隙間を作りピニオンギアを傷めないように少しずつ抜く。めちゃくちゃタイト。
少しずつずらしていくと円筒状の空間が見えてくる。
あめ玉を包んだような可愛い形の回転体(イモネジで固定)と、円形の空間の内壁にピッタリサイズの4周位巻かれたコイルバネが見えてくる。(単独で写真撮っておけばよかった。)
回転体はイモネジを緩めても外れなかった。
コイル状のバネは、モーターの回転には無抵抗、しかし外部からの回転(ピニオンギアからの回転)にはスプリング径が広がり、円筒内壁と擦れることでブレーキとなる。仕組みは自動車のドラムブレーキに似ている。
NG状態が見いだせなかったが恐らく、この空間に過剰に油が入ったか、バネと回転体が噛み合ってなかったかで、ブレーキが効かなかった。
ばねを取り出し円筒形内部の洗浄。内部にまでグリスが入っていた。ブレーキを効かす為にアルコールを浸した綿棒でしっかり脱脂する。
部品の洗浄が終わったら組立に入る。
下の写真①の回転体のイモネジを忘れず締めること。
ピニオンギアを戻すときは突起の位置(下の写真赤丸)に気を付ける。バネの返しと返しの間(上の写真②の右側を目標)に落とし込むこと。
キツくて入りにくいので木槌などでたたいて徐々に押し込む。
最後に軸にCリングを入れ、4隅のネジを締める。ピニオンギアを指で回そうとしても直ちにロックが掛かり「回らないこと」を確認する。
以上で図面29番、MotorAss'yの修理完了。
ブレーキ機構について私が誤解していた点
ローテーターを分解して一見したところ「ブレーキ」と思しきものがどこにも発見できなかった。静止状態を維持するために『ギアにツメが掛かる』など分かりやすい形のブレーキが存在していると想像していた。
しかし、それらしい機構が見いだせない!
なので最初の分解では、制止状態は高いギア比だけ保たれていると思い込み、確証のないままとりあえず余計なグリスを落としただけでタワーに戻した。
さらに、マストベアリングで受け止めていたアンテナ荷重をローテーター側で受け止めるようにした。そうすることで制動力が上がるのでは?と考え、対策とした。
結果、やはり風で回ってしまう。
もしかしたら見えないところに機械的なブレーキがあるのか?
途方に暮れていたところ、親切な方がtwitterを通じて『モーターが怪しい。モーター内部ピニオンギアにブレーキが仕込んでないか?』と教えてくれた。
あたらめて分解~モーター内部を診てみると、まさに指摘通り。円筒形の狭い空間に、スプリングバネとピニオンギアでブレーキを作り出す機構が隠れていた!
カタログ値4000kg/cmの制動力の源は、小さなコイルバネが作る「摩擦」だった。
…以上が今回の修理への顛末である。
Kenpro KR-600、KR-400、Yaesu G-450などブレーキが効かずに悩んでいる方のヒントになればと思います。
~以下分解時に撮った参考写真~
ピニオンギアはこんなにグリスでベトベトにしてはいけない。
LimitSwitchの裏側。
一度、ピニオンギアの直下のブレーキ機構に気が付かず組み上げてしまったこともあった。
向かい合う回転限界スイッチ。最初から北で位置決めし、分解~組み立てすると分かりやすい。写真は北で停めた状態。
位置合わせのため4方向にある凸は一つだけ大きいので注意。この場合、写真の上側の凸が大きい。
この動画が私の記事の数百倍分かりやすい!!先に気が付けばよかった!!